渦巻く螺旋世界を駆け巡る和の響き、さらに旋回し深まる音の結晶。

神村茂三が開く新境地・ジャパニーズサイバートラッド。

DEEP INSIDE 

by 

Shigezo Kamimura

Self Production Note

台風上陸時の石垣島。あの時、私がホテルの窓から見た海こそが全ての始まりでした。朝というのに未だ空は薄暗く、暗雲蠢く空の下には、白波を立たせながら荒れ狂う大波達の群れ。その中から押し出された水流は、反対側から押し寄せる水流とぶつかり合い、それらはやがて激しく旋回しながら中心に向けて集まり、そして消えてゆく・・・。渦潮は不気味な様相で大きく螺旋状に旋回し、海上に浮かぶ全ての物を飲み込もうとしていた。その渦の中心を見た私は何か言い知れぬ恐怖を感じてしまいました。私は幼少の頃より、蟻地獄や磯巾着などの、いわゆる吸い込まれそうな感じのする物が苦手でしたので、きっとあの渦にも同様のモノを感じてしまったのでしょうか?いや、私はあの渦が何やらこの世の物では無い、異次元への入り口に思えてしまったのです。ブラックホール、バミューダ―トライアングル、はたまた神話に出てくる黄泉の入り口・・・。色々と考えながら渦潮を眺めているうちに、私の中に不思議な好奇心が沸き上がってきました。

あの渦の下に広がるのは一体どんな世界なんだろう?

光さえも遮る仄暗い海底の中には一体何が潜んでいるんだろう?

その好奇心はやがて、私の中に独自のイメージを作り出し、今度はそのイメージに浸っている私がいました。イメージはゆっくりと螺旋状に回転し始め、より深き世界へと私を誘い、そしてまたその世界に触れる私の中に新たなイメージが沸き上がり・・・。どうやら私の中にも小さな渦が出来てしまっていました。そしてこの渦こそ、この私を私自身の深層へと誘い、封じ込められていたDEEP INSIDEの音世界を私の中から次々に引き出させてくれました。

制作中に私自身にも様々な事が起こりました。プライベートも仕事もまさに波乱万丈、天国を見ました、でも地獄も見ました。愛と感謝の想いが溢れる時もあれば、悲しみと憎悪の炎で、我が身さえ焼き尽くしそうな時もありました。揺らぐことのない絶対的な自信を感じました、立ち上がれないほどの挫折を感じました。そんな両極な思いや感情は全て、私の中で螺旋状に巡り、やがて渦となり、このDEEP INSIDEを様々な形に変えてゆきました。両極・・・これこそがこの作品のキーワードでした。”伝統的な和と現代的な洋” ”単調なメロディと複雑なコード” ”ポップさとアバンギャルドさ” ”天上の響きと地獄の轟き” ”光と闇” ・・・私自身が緻密に音を作り込む分、和楽器のミュージシャン達には、直感的な即興性を求めました。楽譜など書きません。基本的なキーや拍数だけを合わせる以外は、演奏に細かな指示も出さず、ただ、イメージと空気感だけを伝えました。しかし、そんなアバウトなやりとりの中に置いても、彼らは私の期待に応えるような、繊細でダイナミックなまさに両極の音を奏でてくれました。そんなライブな音をまた、緻密に編集、ミックスするといった作業を何度も何度も繰り返しました。そして、最初に私が嵐に遭遇した日から一年という歳月を経て、ようやく漠然と渦巻いたイメージは、目眩く音の万華鏡へと進化し、このDEEP INSIDEを完成させる事が出来ました。最後に、私のわがままなイマジネーションの旅に付き合ってくれた上に、最高の演奏をしてくれたミュージシャン達、私の”負に満ちた”最初のタイトルを一掃して、作品に客観的かつ的確なタイトルを与えてくださったmikiさんをはじめ、色んな形でかかわってくれたスタッフの皆さん、そしてこれを聴いて下さる全ての人に心より感謝いたします。

神村茂三 (作曲家)

※このテキストは2006年のCD発売に合わせて書かれたものです。