風、つきることなく

by

森堂 自

風は音楽ではない。愛や悲しみを歌わない。感動や陶酔とは無縁だ。
風はただ、ここにいのちをいとなむものすべてを、
かたちあるものすべてを吹く。
蕭然と風景を吹き、あまねく疲弊し苦悩に打ちひしがれた心身を吹く。

風は音楽ではない。なのに私は風を聞いていたい。
あたかも風の中に生まれたもののように、
その響きの中に屹立していたい。
風の中とも自分の中とも知れぬ領域に閑座していたい。

私にできるのはそこにじっと身を沈めて、
たとえようもなく確かなちからに支えられて、
ただ、音を彫りだすのみだ。

「風、つきることなく」....
そしてこの音もまた、 愛や悲しみを歌わない。感動や陶酔とは無縁だ。

ちなみに「森堂 自」とは、私の仏名です。

梨木 良成