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Nash & Artists


ただの古い記憶ではない。
なつかしいだけの景色ではない。
それどころか記憶には存在しない、初見の光景にさえ、
なお厳然と立ち現れる「原風景」を、私たちは知っている。

あたかも、命の始まりに、無垢・無欲・無防備・無判断・無自覚に出会った
この世界の実相とでもいうべき風景が記憶の最奥にしまいこまれていて、
それが事あるごとに、私たちをしかるべき場所とイメージに呼び戻し、
私たちの存在を支え続けるのとでも言うのか。

それとも、個々の命が生きる時間の最両端に、
その命を生成し、やがて再び摂取する次元との境界領域があって、
かつて、私たちは野生の魂のままそれを直視した、のか。

あるいは、この世界のとてつもない奥行きに敷き詰められた「美」が
あらかじめ私たちの存在そのものに深く刻印されていて、
何かの拍子にこころが感応し、その場に一瞬立ちすくんでしまう、
ということなのか。

神々しいまでの音量と光量を放つ雷鳴、
地平を覆い尽くす雨上がりの芳香・風、
おもいがけず、ただただ享受する陽光の恵み、
満天に密集して煌めく圧倒的無数の星々、

とどのつまり、おのが、
光・香り・響きそのものであるかのように、
無分別に、その「風景」に溶融していくことで、
こころは、かろうじて定位する。

梨木 良成