Stucktopia by 岩本和明

Self Production Note ────────


アルバム制作の話を梨木良成氏 (ナッシュスタジオ音楽制作顧問) から頂き、間もなくしてコロナ禍に。新たな状況下で、どんな音楽を作ればいいのか分からない日々が続きました。

「岩本君の好きなように作ってきてください」

それだったらこの状況をそのまま音にしてみようと、見切り発車でアルバム制作に取り掛かりました。普段は煮詰まると気分転換に出かけたり友人と飲みに行ったり、そんな当たり前の事ができない生活。気分が滅入っている時でも、とにかくその感情のまま制作しました。環境音、生活音、自分の声。普段の作品には入れない音を、思いつくままに入れています。

このアルバムは2020年の僕のありのままの日記です。

1. life discolorment (日常変容)

梨木プロデューサーのアイデアで、元々は二つの作品を一曲に。前半から鳴っているフレーズは残りながらサウンドが変化し、穏やかな日常が徐々に不安、違和感に浸食されていく。

2. life infection (生活感染)

ウイルスの感染、その不気味さ、拡大のスピード感。制作当時はコロナに関する見識がなく、漠然とした、顕微鏡で見た細菌のようなイメージを音で表現。

3. void square (虚街) 

普段は人の多い大阪梅田が閑散とする。緊急事態宣言中は店が閉まり嘘のように人もいない。当初の仮タイトルは「梅田Dystopia」としており、このアルバムのタイトルの由来に。前半はコロナ禍前の賑う街の喧騒を挿入。

4. room guitar for no bars (飲みに行けないので部屋でギター)

自宅で飲みながらギターを弾く。ハイボールを氷の入ったグラスに注ぐ音を録音して入れる。

5. home cooking for no diners (外食できないので家で料理)

自宅の台所で野菜を切ったりフライパンで炒めたりしている音を録音して入れる。

6. house cleaning for no reason (せっかくなので家の掃除をする)

メランニンキューブという凄く汚れがとれるスポンジを購入して風呂掃除をする。洗剤の泡によってカビなどの汚れが落ちる様子が、ウイルスをやっつけているイメージだったので、曲で再現。実際にタイルを擦る音や泡の音などを収録。

7. bedroom dance for no outings (家にばかりいるので寝室で踊る)

この曲を作る段階では、もうかなり気が滅入っており、部屋をダンスホールだと想像し、無理矢理テンションを上げている。

8. sleep apnea for no motion (運動不足で睡眠無呼吸症候群)

寝てる間に呼吸が止まりハッとする。メンタルだけではなく身体にも影響が。ギターを乱暴にかき鳴らし、不安定な呼吸、うなされている様子を表現。

9. midnight sprint for no relief (いてもたってもいられなくなり深夜に走り出す)

どうしようもない心の叫び。自分が走っている足音をハンディレコーダーで録音するのに苦労したトラック。

10. life confusion (混沌に生きる)

梨木プロデューサーのアイデアで、「過激でカオスな」「穏やかな祈りのような」二曲を一曲に。途中、走馬灯のように、先行する楽曲の断片を散りばめている。全世界的なパンデミックの最中、自分自身も現実の状況から抜け出せずにおり、その沼の中にいる自身をそのまま表現している。

岩本和明 (作曲家)

 

本作品は音楽ストリーミングサービスで聴くことができます ────────