2019年リリースの「NSR-490 Wild Japan」のレコーディングでは、津軽三味線の名手、久保比呂志さんにご参加いただき、旋律や奏法について相談・確認を行いながら収録を行いました。

よりスタンダードな津軽三味線の奏法を中心に、ニュアンスに富んだ演奏を聴かせてくださいました。久保さんは異色の経歴の持ち主でもあり、津軽三味線を全国に広めた初代高橋竹山師の「津軽じょんから節」に感銘を受け、作曲科在籍のピアニストでありながら大学時代に津軽三味線奏者を志して竹山節本流継承者の田中竹仙氏に入門されたとの事です。

 

録音の合間に興味深いお話を伺うことができましたので一部をご紹介いたします。

三味線は海外でも人気が高いですね。

久保さん:三味線で使用するペンタトニックは世界中の音楽で使われているユニバーサルな音階ですから、理解されやすいのかも知れません。三味線という楽器はとにかくレ・ファ・ソ・ラ・ドの五音階が「ズン!!」と凄く響くようにできているんです。

一気に引き込まれる独特のサウンドです。

久保さん:三味線はペンペンペンペン革に跳ね返ってひたすら前方に鳴る。ギターのようにボディ(空洞) の中に響くのではない、言わば何物にも包まれていない”裸”の音。ちょっと恥ずかしい音なんです(笑) 長唄なんかの優雅で上品な三味線は好きだけど、津軽はジャンジャカうるさくて苦手、と言う方もいますね。好き嫌いが分かれる津軽サウンドの迫力とインパクトです。

三味線の音色は和楽器の中でもユニークな存在ですね。尺八にはフルート、琴にはハープと言ったように、西洋の楽器にも対応するものがあるような気がしますが、三味線に似ている西洋楽器はにわかに思いつきません。

久保さん:だから、クラシックやジャズやシャンソンとか、いわゆる西洋音楽のメロディーを三味線で演奏すると笑っちゃうようなことになる。アンサンブルに混じるとすごく浮くんです (笑) オペラ歌手の面々に一人だけ民謡歌手が混じる感じで、全く違うんですね。

確かに、和楽器以外のアンサンブルであまり耳にすることがありません。久保さんはナッシュスタジオの録音に参加されている出口煌玲さん (龍笛・篠笛奏者)や折本慶太さん (和楽器奏者) と日頃から共演されていますね。

久保さん:出口さんとはつい先日、奈良の大仏様のすぐ”ヨコ”で演奏をしてきたばかりです。出口さんは本当に幅広いスタイルのバンドやアンサンブルで演奏されていますね。それこそジャズとかロックとかフュージョンとか。和楽器の演奏だけではなく、様々なコラボレーションの催し・企画をプロデュースしている本当に多彩な方です。(久保さんは出口さんが主宰している「MAHORA Japan」 の雅楽アンサンブルのメンバーとしても活動されています。「MAHORA Japan」ウェブサイト: https://mahora-japan.com/hiroshi-kubo/)

三味線はソロ演奏の印象が強いです。和楽器のアンサンブルの中というより、どこか孤高のイメージと言うか・・・

久保さん:津軽三味線の始祖である仁太坊は「人真似は猿でもできる」と言いました。津軽三味線はチューニングなんかも大変自由。とにかく自分の世界を追及する。人と違うことをする。そして非常に限られた旋律を一人きりで演奏します。でも実は、一人でコンサートを行うのは今でも怖いくらいなんです。

久保さんのように経験を積んだ奏者がですか?

久保さん:間が持つかな、と心配で (笑) だから話もできないといけないんです。間を持たせるために。その点、竹山先生は話もすごく達者でしたね。

お客さんが大笑いして拍手喝采ですね。津軽弁が分からないのが残念です。

また、ジャンルは違いますが、ブルースの演奏家は音楽的にも精神的にも津軽三味線奏者に近いところがあり、共感するところが多いです。ところで、あまり知られていませんが、三味線のルーツは大阪なんですよ。

え、そうなんですか!

久保さん:前身である三線が沖縄から大阪の堺に伝わり、それを堺の琵琶製作者が手を加えて三味線が出来たと言われているんです。ただし、大阪では中々蛇が見つからなかったので猫で代用したんですね。

(※16世紀末の琉球貿易によって伝わったらしい。淀殿のために豊臣秀吉が作らせた三味線である「淀」は現存しており、現在の三味線とあまり変わらない形状との事)

久保比呂志さん演奏曲

この日だけで計5曲の三味線作品をREC完了。すると「勉強になりましたし、上達しました。また声をかけてください」と仰っていただき、こちらが恐縮するほど謙虚で腰が低い久保比呂志さん。素敵な演奏と貴重なお話を誠に有難うございます。

(聴き手/テキスト:村岡)