■コロナに振り回された2020年度

今年度もたくさんの作品を作ったなぁとサイトのサンプル音源を聴き返しながら感慨に浸っているのですが、2020年度、思い返すと本当に色々ありました。やはり、一番大きいのはコロナの影響ですね。イベント関連が一斉になくなってしまい、大方のミュージシャンが影響を受け、仕事がなくなってしまいました。

ナッシュの仕事の範疇で言えば、曲を作る作家陣にはあまり影響が出ませんでしたが、演奏家さんを現場レコーディングに招く場合には非常に気を遣いました。ナッシュとしても、このコロナ禍で何ができるのかを考え実行してまいりましたが、大勢を集めて行う音楽制作には手をつけることができませんでした。

ですので、今年度の制作物には恒例化していたオーケストラ系の作品はありません。ディスタンスを保ちつつ録音できるのは五人が限度でしたので、その代わりに、ジャズ系の収録が多めとなっております。(スコティッシュもやりました!)各々個別の空間に入ってもらっての収録はこれまで通りで、特に変わりがあるわけではないのですが、オーケストラのような大人数の収録は密を避けられず、どうしても難しかったです。

それでもアンサンブルの必要に応じて、一人でスタジオに入っていただき重ね録りする!というチャレンジを行いました。2テイク目は少しマイクから離れて!3テイク目は別の演奏スタイルで!4テイク目は別の弓に持ち替えて!等々、工夫を行いながら。この一人多重録音のチャレンジではいい発見がありました。大勢での収録だと隠れてしまう、演奏者個人のクセや、ひいては表現世界の幅があわらになり、それを活かせたのです。大勢もいいけど、こっちも良い。録音テクニックの幅が広がりました。

 

■コロナで変わる日常

コロナをテーマとする作品を制作する事により「こんな時にしかできない!」そんな作風も誕生しました。もちろん、心温まるテーマではありませんが、それにしても世の中をこれだけ変化させてしまう出来事となれば、作家としては、それを表現したくなる、という事があります。むしろ「しなければ!」という使命感が芽生えるのかもしれません。

ライブラリは普遍的であるべきという信念の元、世の中の流行を軸にして曲作りを行う慣習は、基本的にナッシュにはありません。しかしながら、今回の世界的な感染拡大は、流行の範疇ではなく、人類が将来設計を見直し始める大きな局面となっています。出来上がった作品には、混沌とした社会から受け取った違和感だけでなく、新しい日常に応じていくアーティストの姿勢まで反映されています。

 

【Stucktopia】アーティスティックで自由自在のサウンドメイク。新しい日常の風景=不思議な感覚に彩られた「今・この瞬間」を鮮明に描き出すエレクトロサウンドです。

 

【新しき日常】世の中はひっくり返り、常識は覆され、これまでにない現象が起こり、非日常的な風景が広がっていく。我々が生き始めた新しい日常を、シュール/アブストラクトに描き出すアバンギャルド作品。

 

■BGMアプリの誕生によって変わった制作現場

店舗・イベント・ライブ配信向けのBGMアプリ「ナッシュ音楽チャンネル」を立ち上げたことで、現場の制作スタイルにも良い影響がありました。普段制作に参加している作家たちが、自分たちの作品からBGM番組の選曲を行う事で、新しい制作プロジェクトの萌芽になるようなフィードバックがどんどん出てくるんですね。

たとえば、アジア系の飲食店向けBGMを作ろうとしたら、それなりの楽曲が意外と見つかりませんでした。CMで使用されるような派手でインパクトが強めのものはたくさんあるのですが、それでは合わない。旅番組風の躍動感や切ない雰囲気も必要ない。場面が忙しく展開していくような楽曲では、ゆっくり食事を楽しんでもらえないじゃないか...ナッシュミュージックライブラリーから選曲を行う事で、料理を楽しむのに相応しい優雅な心持ちの音楽が意外と少ないことに気づく事ができたのです。

そこで、よし、作ろう!となる。

そのようにして出来上がった作品は、BGMアプリだけではなく、ナッシュミュージックライブラリーにも収録するので、ナッシュの総合的なコンテンツバラエティの拡大に繋がっていきます。そして、作家たちが自らBGM番組の選曲を行う事により、自発的なアイデアまで提出してくれる!制作プロジェクトを立案する上で有益な、作家たちとの新しいリレーションが構築され始めました。今後、これまでの企画会議では思いつかないような作品づくりも進んでいく予感があります。

「アジアングルメ」収録の二胡を演奏する鳴尾牧子氏

2021年度はどんな作品が出来上がるのか、今からとても楽しみです。ボーカル作品を増やしたい!とか、やりどころのない悲しみを追求したい!とか、オシャレなアフリカンが作りたい!とか、メルヘンチックかつアップテンポな楽曲を作りたい!とか、やりたい事が多すぎて、言い出したらキリがないんですが、できるものからどんどん、着実に実現していく2021年度にしたいと思います。

近藤 学 (取締役制作部長)