PICK UP ARTIST VA作品アーティスト特集

Vol.1 Kiyoharu Hirose 2010.11.08

もしかしたら、雲の動きより遅いかもしれない。それほどゆっくり動く映像と対峙していると、吸い込まれそうな錯覚にとらわれる。作品によっては川の流れやマイナスイオンさえ感じさせてくれる。そして、記憶の中にある風景を追体験している自分に気がついた。

いかに自然で、気持ちいいか。

NVAプロジェクトの最初のビジュアル・オーディオ作品となった《四季シリーズ》40タイトルを制作したのは、WEBディレクターでもあり、映像作家として活躍する廣瀬圭治氏。ビジュアル・ジョッキー(VJ)のパイオニア的存在として業界で名を馳せた経緯を持つ彼は、「音楽と映像がひとつになった瞬間、新しい感動が生まれることはすでに体感していた」と話す。その経験を生かしつつも、VJとしてではなく、新しいジャンルで映像表現がしたいと、デジタルコンテンツの企画展をはじめ映像関連の総指揮などに携わることに。それらの活動が目にとまり、NVAプロジェクトのコンセプトづくりから参画することになったのは自然な流れで。
ひとりの映像作家としては、音楽家・梨木氏のIMAGE WORKS四季シリーズのイメージサウンドと写真家・木寺氏のネイチャー写真を使い、「音楽家と写真家の作品をいかに自然にみせるか。視聴する人にどれだけ気持ちいいと感じてもらえるか」に徹することを自身の表現コンセプトに据え、心地よい錯覚にとらわれる映像作品を描き出した。
日本の四季を表現した40タイトルものヒーリングサウンドのイメージに合わせ「2万枚もの写真ライブラリの中から1枚1枚写真をセレクトする工程がもっとも大変だったけれど、とても楽しかった」と廣瀬氏。しかも、写真はデジタルデータではなくポジフィルムだったため「ひさしぶりにライトボックスにかじりついて、アナログな作業に没頭しました」と笑う。木寺氏の膨大な写真と向き合っているうちに、写真にこめられたメッセージに気づいたときの嬉しさもしかり。梨木氏の音にぴったりとハマった瞬間は感動そのもの。それを体感できたことが、なによりの喜びなのだと語ってくれた。

 

 

観て、聴いて、感じてもらいたい。

このシリーズのこだわりは、5分前後のサウンドに合わせる写真を5枚程度にしぼったこと。曰く、「映像作品で、1枚の写真を1分間も見せるなんて、ほとんどないのではないでしょうか」。なるほど、画像閲覧ソフトのスライドショーひとつとってもデフォルトの設定は数秒間、それで十分だという感覚で見てしまっている。「美術館に行くと、1枚の絵の前で立ち止まってじっくり鑑賞しますよね」と。それに、「音楽愛好家がこだわりのオーディオセットを揃えてソファに座ってじっくりと音を楽しむということも、今は少なくなっている気がする」とも。そのふたつの想いが投影された廣瀬氏の作品は、「音を聴かせるための写真や映像でもなく、もちろん写真を観せるための映像でもない。ビジュアル・オーディオは、音と写真がひとつになってはじめて完成するメディアなのです。じっくりと絵を聴いて、音を観て、作品を感じることで、吸い込まれていくような心地よさを体感していただければ」とメッセージ。《四季シリーズ》は、なにげない時間や空間に新しい感動をプラスしてくれる作品だからこそ、まずは、身の回りにあふれているパソコンやスマートフォン、携帯電話で楽しんでもらうことからはじめたい。防水機能付きの携帯電話があるのなら、アロマキャンドルの代わりにお風呂場で。ポケットからスマートフォンを取り出して満員電車に揺られながら。ヘッドフォンをつけて一人でじっくりと。「観て、聴いて、感じる。自分だけの5分間を楽しむという行為そのものが、じつはとても贅沢で豊かな時間なのではないかと思うのです」。ゆくゆくは、自宅のテレビで作品を楽しんでもらうことも視野に入れハイビジョンサイズで制作しているのだとか。

つねに自由な発想で、新しい作品づくりを。

今後の作品づくりへの展望はとの質問に、「とにかくいろいろなアーティスト、クリエイターの方たちと組んでやってみたい」と目を輝かせる。今回のように音楽家の音、写真家の写真があってこそ生まれる作品もあれば、映像コンセプトからつくりあげ、音楽家や写真家とのコラボレーションから生まれる作品もある。つぎはピアノの生音を使うかもしれない、写真ではなく動画かもしれない、クレイアニメのアニメーターの方、あるいは映像ディレクターとのコラボレーションがあるかもしれない。そこに無限の可能性があるからこそ、やりがい、挑戦しがいがあると感じるのだそう。そして「参加されたほかの映像作家の方の作品に刺激を受けて、新たなインスピレーションを得ることも楽しみのひとつ。つねに自由な発想や表現で作品づくりに取り組んでいきたい」と語る廣瀬氏の、つぎなる展開が早くも気になるところ。

KIYOHARU HIROSE PROFILE

廣瀬 圭治(ひろせ きよはる):映像作家・WEBディレクター・デザイナー
1972年11月岐阜県生まれ。20代の前半はバイクで全国を旅する放浪生活を送るが、小さい頃から好きだった「絵」に携わって生きていこうと決意。自分探しの旅を卒業。20代後半はクラブシーンにおいて、VJ(ビジュアルジョッキー)のパイオニア的存在として全国のクラブやイベントに出演し、多数の海外アーティストと共演。後にアップルストアにてVJの講師を務める。02年 30歳でフリーランスとなり、2006年キネトスコープ社を設立。VJの経験を生かしたリッチコンテンツやWEBを提供してきた。WEB制作にとどまらず、07年にはインタラクティブな映像をテーマにした「観て聴いて触って、感じる展」。08年「NARA COLLECTION 2008」の映像総指揮、同年 大阪市内で活躍する映像クリエイターを発掘する「OAV.E(Ogimachi Audio Visual Exhibition)」を立ち上げ、映像関連のプロデューサーとしても活躍。参考URL http://migohsha.com/artist/artist12/